年々、若年層の大学進学率は最高を更新しており、令和4年度は56.6%と約半数以上の学生が大学に進学していることになる。
大学進学は就職に並ぶ人口移動の大きな要因だが、大学進学率が拡大する中、希望の大学がある地域に転出する若者の割合は当然増えている。
地方都市の人口移動
大学全入時代と言われる昨今、大学の定員数よりも大学進学希望者が少ない状態が続いているが、実際に地域毎に見ると、地方の学生が住んでいる都道府県に進学希望者分の定員があるかと言えばそうではない。
まずはこれを見ていただきたい。
これは15歳から19歳の若年層人口の転入超過数だ。
この年齢層は高卒で就職、もしくは大学進学でまとまった数の人口移動が発生する。高卒での就職は多くが高校の斡旋により地元で就職する場合が多いため、大部分が進学による人口移動と考えられる。
この結果を見ると、明らかに首都圏への人口移動が大半を占めており、関西圏がそれに続く形になっている。
また、宮城、福岡などの地方中枢都市も多少の転入が発生しているのがわかる。
これは、地方都市から大学進学のために都市部へ学生が移動していることを表している。大学全入時代で授業料を払うだけで入学できるような私立大学も多く存在するが、そのような私立大学がどの都道府県にもあるとは限らない。
学力に関係なく、大学に進学する学生は都市部への移動を強いられている。
都道府県別大学生数、人口構成比
このグラフは、各都道府県の大学生数を示している。
東京都に一極集中しており、学生数が20万人を超える自治体は東京都と大阪府しかない。
この首都圏、関西圏に属する都府県や愛知県、福岡県が10万人を数えるのみで、約80万人の大学生が存在する東京都にいかに大学が偏っているかがわかる。
国立大学や公立大学は、各都道府県の人口規模に応じてバランス良く配置されているが、問題は私立大学だ。
明らかに立地が大都市に偏っており、島根県には私立大学が一校も存在しない。
こちらの表は人口あたりの大学生数構成比を出している表だ。
都道府県の20歳未満人口の構成比に対して、大学の学生数の比率が高い地域は「宮城県」「東京都」「石川県」「愛知県」「京都府」「大阪府」の6都府県であり、東京都の比率が圧倒的に高いことが見て取れる。
20歳未満人口の1割が東京都に住んでいることに対し、全大学生の25%が東京都に存在するということは、それだけ他地域から若年層を取り込んでいることになる。
西日本で特筆すべきは京都府で、人口規模がそこまで大きくない京都府でも大学の集積が進んでおり、学生の街としての側面を強く持っている。
私立大学のみの学生比率を見るとさらに都市部への集中が進んでおり、地方都市における大学の不足が深刻化していることがわかる結果となった。
高度人材の流出
学費が高く、学歴に左右されることが少なかったかつての日本では大学に行くのは知識人と金持ちが多かっただろう。
だが、現代の日本において就職の際に大卒が必須要件に入ることが多く、学費を払うだけで入れるような大学にも進学させる家庭も増加していると推測される。各都道府県に一校は必ずある国立大学は、学費が安いこともありどの大学も入学には一定程度の学力が必要となる。
一方、勉強はそこまでだが大学には入っておくという需要が高まり、地方都市にもそこまで偏差値の高く無い大学は多く誕生している。地方に残りたい学生で国立大学に行くほどの学力がない学生の受け皿となる大学は、ある程度の地方都市であれば多数存在する。
だが、偏差値60を超える大学は、医学部を除けば歴史のある大学に集中しており、そのような大学は首都圏・関西圏に極端に集中しているのが現状だ。
医学部を除いて偏差値61以上の学部があり(Benesseマナビジョン)、5以上の学部がある私立総合大学数
(偏差値は受験方法を問わない)
都道府県 | 大学数 |
東京都 | 18 |
神奈川 | 2 |
埼玉 | 1 |
愛知 | 3 |
大阪 | 2 |
京都 | 6 |
兵庫 | 2 |
福岡 | 2 |
文部科学省:https://www.mext.go.jp/content/20210317-mxt_jyohoka01-100012481_19.pdf
Benesse マナビジョン:https://manabi.benesse.ne.jp/daigaku/hensachi/
5学部以上がある私立の総合大学の立地は極端に都市部に偏っており、一都三県、京阪神、愛知、福岡以外には高偏差値の総合大学は一つも存在しない。
医療系単科大学であれば地方都市にもないことはない。久留米大学などの医学部だけ突出して偏差値が高い総合大学もある。
しかし、医療系に進みたいという需要以外は満たせず、国立に落ちたら都市部に出るしかない状況となるであろう。
また、これらの大学の中でも大学のレベルによっても立地はさらに偏る。
私大トップの早稲田、慶應、上智は東京にしか存在せず、それに次ぐMARCHや関関同立は首都圏と関西圏にしかない。
それに次ぐ名古屋の南山大学や福岡の西南学院大学などは、偏差値や全国的な知名度は一段劣ってしまい、数万人のキャパシティのある関東関西の難関大学ほどの受け皿はない。
名古屋大学や九州大学を受ける学生が滑り止めで受ける大学が地元には無く、多くの知識人が県外に流出してしまっているのが現状だ。
難関大学の進出が地方を救う
地方都市に高偏差値の大学は医療系以外ほとんど存在しない現状だが、上記で示した総合大学ではない大学で偏差値61以上の大学が東名阪福以外に2校存在する。
それが立命館アジア太平洋大学(大分)とノートルダム清心女子大(岡山)だ。
特に立命館アジア太平洋大学は学生数が約6000名の大規模大学で、偏差値も福岡大学を超える水準。この大学は関関同立の一角「立命館大学」を運営する学校法人立命館が建てた国際大学である。
資金力の強い難関私大のグループと知名度で、地方大学では珍しくほとんどの学生が県外から進学している。
【1位:東京都(445名)、2位:福岡県(340名)、3位:大分県(289名)、4位:全国のインターナショナルスクール(248名)、5位:大阪府(202名)APU HPより】
このような首都圏・関西圏の大学の地方進出は、【早稲田大学・北九州キャンパス】【慶應義塾大学・鶴岡キャンパス(山形)】など、APUほどの規模ではないが地方へのキャンパス建設は少しずつ進んでいる。
大規模大学の地方進出を行政が牽引して進めていくことは、地方創生の特効薬となると確信している。
人口流出の主な原因は進学と就職の2大要因があるが、知的人材の確保という面でも難関大学の誘致は地方発展へ貢献しうるだろう。
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