最近、大分県を中心に東九州新幹線の議論が活発になっています。
2023年11月に大分県のHPで東九州新幹線ルート調査の結果についての資料が公表されていますので、こちらを読み解きつつ、2ルートについて考えていきます。
東九州新幹線とは?
東九州新幹線は「全国新幹線鉄道整備法」によって基本計画路線に指定されている計画です。
本来計画されているルートは、現在の日豊本線とほぼ同じルートが想定されており、以下の通りとなっています。
青色の部分が想定される東九州新幹線の本来計画されているルートになります。
博多・小倉間は山陽新幹線が通っており、小倉起点の新幹線になることが予想されます。
東九州新幹線はその名の通り、福岡から九州の東側(大分・宮崎)を経由して鹿児島に向かう新幹線計画となっており、現在の九州新幹線鹿児島ルートと比較すると沿線人口規模が少なく、路線長は長いという新幹線計画となっており、採算性の面から様々な検討がなされています。
博多-大分間 2ルート基本情報比較
今回、大分県では従来の日豊ルートの他に、JR久大本線に沿ったルートを走る久大ルートを検討し、2ルートを比較した結果を公表しました。
各々のルートを見ていきましょう。
ルート
日豊ルート
日豊ルートは前述の通り「小倉駅」を起点として「行橋市」「中津市」などを経由して大分駅に向かうルートになります。
同ルートを通る日豊本線には博多 – 大分(宮崎)間を走る特急「ソニック」などが多数運行されています。
久大ルート
久大ルートは「新鳥栖駅」を起点として、「日田市」「由布市」などを経由して大分駅に向かうルートになります。
同ルートを通る久大本線には、特急「ゆふいんの森」「ゆふ」が運行されています。
沿線人口
日豊ルート
都道府県 | 市町村 | 人口(2023/10/1) |
福岡県 | 北九州市 | 916,241 (参考) |
福岡県 | 苅田町 | 38,120 |
福岡県 | 行橋市 | 70,981 |
福岡県 | 築上町 | 16,216 |
福岡県 | 豊前市 | 23,311 |
福岡県 | 吉富町 | 6,430 |
福岡県 | 上毛町 | 6,960 (日豊本線は通らないが、至近に位置) |
大分県 | 中津市 | 81,723 |
大分県 | 宇佐市 | 50,661 |
大分県 | 豊後高田市 | 21,655 (日豊本線は通らないが、至近に位置) |
大分県 | 杵築市 | 26,347 (日豊本線は通らないが、至近に位置) |
大分県 | 日出町 | 27,359 |
大分県 | 別府市 | 113,373 |
大分県 | 大分市 | 472,606 |
合計 | 955,742 (北九州市以外を算出) |
大分市は単体で47万人、別府市を含めると約60万人の比較的大きな人口規模を有しています。
こちらのルートでは、県内の中津市・宇佐市や福岡県行橋市など比較的人口の多い都市が連続しており、大分県内主要都市とのアクセス向上にもつながります。
久大ルート
都道府県 | 市町村 | 人口(2023/10/1) |
佐賀県 | 鳥栖市 | 74,805(参考) |
福岡県 | 久留米市 | 300,240(参考) |
福岡県 | うきは市 | 26,875 |
大分県 | 日田市 | 59,862 |
大分県 | 玖珠町 | 13,481 |
大分県 | 九重町 | 7,952 |
大分県 | 由布市 | 32,287 |
大分県 | 大分市 | 472,606 |
合計 | 613,063(鳥栖市、久留米市以外を算出) |
乗車人員
新幹線駅が配置される可能性のある主要駅の在来線乗車人員を下に示します。
久大ルートは、沿線人口が少ないことや、地方交通線であることなどから比較的乗車人員は少なくなっています。
日豊ルート
市町村 | 駅 | 乗車人員(2019年度) |
北九州市 | 小倉駅 | 35,636 (鹿児島本線、日田彦山線を含む) (参考) |
行橋市 | 行橋駅 | 6,172 |
中津市 | 中津駅 | 2,960 |
宇佐市 | 柳ヶ浦駅 | 606 (宇佐駅) 471 |
日出町 | 暘谷駅 | 867 (日出駅) 509 |
別府市 | 別府駅 | 5,977 |
大分市 | 大分駅 | 18,660 |
久大ルート
市町村 | 駅 | 乗車人員(2019年度) |
鳥栖市 | 新鳥栖駅 | 1,642 (鳥栖駅) 7,132 (参考) |
日田市 | 日田駅 | 651 |
玖珠町 | 豊後森駅 | 338 (2016年度) |
由布市 | 由布院駅 | 1025 |
大分市 | 大分駅 | 18,660 |
調査結果の内容
次に、大分県が発表した「東九州新幹線の日豊本線/久大本線ルート(福岡~大分間)の調査について」から調査結果を見ていきます。
所要時間
日豊ルート
日豊ルートは小倉駅を経由して九州や本州へ向かうルートです。
新大阪への所要時間は52分の短縮となり、飛行機との競合を考えた時に「4時間の壁」を切る所要時間で関西へアクセスできるようになります。
久大ルート
久大ルートでは小倉駅ではなく新鳥栖駅を経由するため、九州各県への所要時間が大きく短縮されます。
博多駅への短縮効果の他、熊本駅や長崎駅への移動時間の短縮が期待できます。
特に、長崎駅へは将来的に西九州新幹線が全通した際には「新鳥栖駅」で東九州新幹線と西九州新幹線の接続が可能となり、新鳥栖駅が九州新幹線3路線の結節点となる一大ターミナルとなることが期待されます。
概算事業費
概算事業費は久大ルートが若干高くなっています。
久大本線は大部分が山間部を通るため、長大なトンネルを建設する必要があるのが原因のようです。
費用対効果
費用対効果は、事業の投資効率性を示す指標の一つです。
この値が1を上回ると便益が費用を上回ることになるため、1を超えることが事業実行の一つの大きな目安となります。
大分県の試算では日豊ルートが久大ルートを上回る費用対効果があると試算しています。
将来需要
2018年の地域間移動者数をベースに利用者の推計がなされています。
現在の在来線利用者からの転移や航空機などの他の交通機関からの転換分が含まれていますが、新幹線開業による新たな需要については考慮されていません。
なお、2060年時点の将来推計人口を参考に作成されています。
日豊ルートは博多 – 大分間の他、経済的な結びつきの強い小倉 – 大分間や中津 – 大分間の利用者の転移もあるため、在来線からの転移数は多くなっています。
久大ルートは在来線からの転移は少ないものの、長崎や熊本・鹿児島など九州各県への所要時間が改善するため、高速バスや自家用車からの転換が多く見込まれているものと考えられます。
メリット
日豊ルート
メリット① 関西へのアクセス向上
日豊ルート最大のメリットは、関西・中国地方へのアクセスが大きく向上する点が挙げられます。
大分県から新大阪への鉄道アクセスは現状4時間半の所要時間が必要となっており、国土交通省の府県「相互間旅客輸送人員表(2020)」によると、
(千人) | 航空機利用者 | JR利用者 |
大分県 → 大阪府 | 51.9 | 36.8 |
となっており、大分から大阪への移動では約6割が航空機を利用しています。
日豊ルートで新幹線が繋がると、大阪への所要時間が3時間40分と大きく短縮されることから、関西方面へのアクセス向上に貢献します。
メリット② 小倉駅へのアクセス向上
大分県は、90万人を超える九州第二の大都市「北九州市」と関係が深い地域です。
双方とも太平洋ベルトの一角の工業地帯として発展しており、比較的交流が盛んです。
日豊ルートでは北九州市の中心駅「小倉駅」を経由して博多に向かうことになるため、大分から小倉への時間短縮効果はかなり大きなものになります。
久大ルート
メリット① 九州各地へのアクセス向上
新鳥栖駅を経由するこのルートでは、新鳥栖駅から「博多」「長崎」「熊本」の九州各地の主要都市へアクセスしやすくなります。
現状、大分県へのアクセスは基本的に自家用車が多いことから、新幹線でアクセス可能になることによって車を持っていない多くの観光客が大分へアクセスできるようになります。
大分県、特に「湯布院」「別府」地域は九州を代表する観光地であり、高齢化が進み車が運転できない人が増えていくことや、九州を周遊する外国人観光客が今後も増えることが予想される中、九州各地へのアクセスが向上することは、九州人にとってより新幹線を身近に利用できる機会となり得ます。
メリット② JR九州の路線で完結する
日豊ルートで建設すると、博多 – 小倉間はJR西日本の山陽新幹線の路線を共用することになります。財政的に厳しいJR九州がJR西日本に線路使用料を払う必要があり、JR九州の収入が少なくなることが予想されます。
一方久大ルートはJR九州の九州新幹線鹿児島ルートを利用することができるため、JR九州のみの路線で完結できます。
山陽新幹線の線路容量の問題で便数を制限されることもないため、JR九州が自由にダイヤを決めることができ、ひいてはJR九州の在来線の維持にもつながっていくと考えられます。
総括
私個人の意見ではありますが、久大ルートとして整備するのが将来的な九州の発展に繋げる点で有効と考えています。
博多 – 大分間でJR西日本の路線を利用する必要がなくなり、九州各地へのアクセスも大きく向上するというメリットは九州発展の一助になると思っています。
しかし、関西方面へのアクセスの向上という点では日豊ルートに大きく分があります。
試算では2060年に開業予定とされていますが、この時期に「四国新幹線」のルートがどうなっているかも東九州新幹線の大きな鍵です。四国新幹線は本来「大阪 – 徳島 – 香川 – 愛媛 – 大分」を結ぶ基本計画となっており、豊予海峡を通じて大分と四国、関西が結ばれることになれば、日豊ルートである必要はなくなります。
皆さんはどう考えますか?コメント欄で意見を教えてくだされば幸いです。
コメント
山陽新幹線と被る小倉〜博多を千代田線・常磐線北千住〜綾瀬みたいな特例措置が出来れば日豊ルートが最適だと考えます
大分〜小倉〜博多はJR九州
博多〜小倉〜新大阪方面はJR西日本
それぞれの料金のみ徴収というやり方です。