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東京・福岡以外の人口シェアが減少する!? 京大教授が推計する100年後の将来人口

将来人口推計

東京一極集中は、東京都知事選挙でも大きな争点となっている日本の課題の一つです。
首都圏に人口が集中することに対する問題点は多くありますが、「低い出生率」と「地方の衰退」は中でも大きな問題として捉えることができます。

比較的出生率の高い日本の地方都市から、低出生率の東京に若年層が集中することで人口減少を加速させ、地方からの流入に頼りきっている東京都もいずれは地方の人口減少とともに衰退局面に入るでしょう。

京都大学経済研究所の森知也教授が2024年2月に出した「人口が減少し距離障壁が崩壊する下での日本の都市の未来」では、100年後の日本の人口は、江戸時代の人口(3000万人)と同等まで減少し、人口重心が急速に西日本に移り、東京・福岡を中心とした新たな地域構造が現れるとしています。

今回の記事では、この論文を解説した「都市というレンズを通してみる日本の未来(著:森知也)」をさらに要約し、迫り来る日本の未来について考えていきます。
要約する際に、論文の著者が伝えたいことまで短縮してしまっている可能性があります。お時間がある方は、是非著者のコラムに目を通してみてください。

結論のみ確認したい方は、「100年後の都市、地域の姿」から読んでください。

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都市というレンズを通して見る日本の未来(要約)

都市単位で見る日本

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第一話 図1. 人口集積としての都市

まず、この論文の都市の定義として
・人口密度が1,000人/km2以上かつ
・総人口が1万人以上の地理的に連続した1kmメッシュの集合

として定義されています。
1970年-2020年の過去50年間で都市数は、1970年の504から1975年の511をピークとして、2020年に431まで減少しています。
日本の人口ピークは2008年で、この50年間で日本の人口は2000万人以上増加しているにも関わらず、都市数が70近く減少しており、小規模な都市の淘汰と、より大都市への人口集積が進んでいる傾向があることがわかります。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第一話 図2. 都市、都道府県、市区町村の人口と人口順位との関係

図2は、図1で示す人口1万人以上の条件を緩めて、人口1千人以上の人口集積を「都市」とした人口順位を示した図です。
この図の横軸は対数軸となっており、都市のグラフが直線で表されていることから、人口順位の比が人口比と比例している傾向(べき乗則)となっていることがわかります。

べき乗則 ex)1位の首都圏、2位の関西圏の人口が約3400万人:約1500万人で人口比約2.3
10位の奈良と20位の松山との人口の比率は同じ2.3

都道府県や市区町村単位ではこのべき乗則は見られませんが、今回のような「都市」を基準にすると、べき乗則の傾向が見られ、この傾向は「九州」「関東」のような地方単位で見てもほぼ同様にべき乗則に従っています。
この性質が未来の都市を予測するのに重要なファクターになります。

人口集積のメカニズム

1970〜2020の過去50年間で、人口の地理的な分布に大きく影響したのは「輸送・通信費用」の減少と述べられています。
新幹線や高速道路の整備により、輸送費用や移動時間が大きく減少しました。論文中には出てこない単語ですが、私が大学の時に触れた言葉で、「費用距離」「時間距離」という概念がありましたが、それに近い考えだと思います。
また、インターネットの普及により、電話しかない時代と比較して、同じ量の情報をより短時間で伝えられるようになったことを考えると、通信費用も「輸送費用」の一部と捉えることができます。

人々が集まり、都市が形成されるのは、この輸送や情報伝達の費用が高いからです。これらの大幅な変化により、都市間の人口分布や都市内部の人口分布も変化します。

では、この50年間で人口分布はどのように変化したのでしょうか?


引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 図2. 都市人口分布の変化 (1970年と2020年)

この50年間で、全国の人口は1億400万人から1億2,700万人へ22%増加したのに対して、都市人口は49%増加し、都市化が大きく進みました。
1970年の人口分布と2020年の人口分布を比較すると、どちらもべき乗則に従っているのは変わりませんが、傾きが急になっています。これは、大都市に人口がより集中したことを表しています。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第二話 図3. 個々の都市の人口密度と面積の変化 (1970年から2020年)

都市内の人口分布の変化を見てみます。
青グラフは都市を1㎢のメッシュで示した際の平均人口密度、緑グラフは最高人口密度、オレンジグラフは都市の面積を表します。
これを見ると、この50年間で各都市の面積は増大し、人口密度は減少しており、いわゆる都市内部で平坦化が進んでいる傾向があります。

つまり、日本全体で見ると大都市に人が集中し、都市単体で見ると中心から外側に人口が分散している傾向があることが見て取れます。

集中と分散が同時に起こるわけ

都市部への集中と都市内での分散が同時に起こる理由を、経済集積理論に基づいて説明されています。


引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第二話 図4. 輸送費用の低下と都市間・都市内の人口分布の変化

都市部への集中が起こる理由

  • 輸送費用減少で商圏が広まり、一部の都市は淘汰されて消滅する
  • 企業や人口は、商圏が重ならない範囲で集積し、離れた都市に人口が集積する

大都市だからといってこの例には漏れず、例として東海道新幹線開通によって、大阪本社の企業の多くが東京へ本社機能を移し、商圏の拡大によって競争に耐えられなくなった企業が大阪から撤退するといったことも起こりました。全国各地に本社機能があったコカコーラボトラーズの合併が進み、東京に機能が集積したのも同様のことが言えると思います。

都市内で人口分散が起こる理由

  • 交通網の発達により、より住宅コストの安い郊外から通勤ができるようになる
  • 通信技術の進歩により、在宅勤務が増えれば通勤頻度が下がり、住宅コストに低い郊外に居住できる
  • オンラインで商談可能になると、家賃が高い都心から郊外へ移転できる

都市内の分散は、より直感的に理解しやすく、コストの高い中心部から郊外へ人や企業が移転することで、都市の平坦化が発生すると説明できます。

集中と分散の例

コラムの中で例示されているものをいくつか紹介します。
引用元:引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第二話 図5 〜 図15

人口が大きく増加した三大都市圏でも、それ以上に面積が拡大し、都市内で平坦化が進むことで、最高人口密度はいずれも減少しています。
東京の人口密度は50年で67%増加し、47%増加した面積よりも増加幅は大きいですが、最高人口密度(1km2当り)は40,000人から33,000人へ20%減少しており、人口の平坦化が進んだことがわかります。

大阪は、人口増加幅が22%と、国全体の増加率と同じ程度にしか増加しておらず、極度に平坦化が進んでいます。
その要因を論文内では、新幹線などの発達で規模の割に東京に商圏が近づきすぎ、淘汰の対象となったと指摘しています。最高人口密度は40,000人から29,000人へ28%減少し、同様に平坦化しています。

名古屋は、446万人から732万人へ64%増加して、東京と同様に「国レベル」の人口集積が進んだ都市です。都市面積も65%増加し、最高人口密度は、24,000人から18,000人へと24%減少しています。
個人的な見解ですが、おそらく人口規模に対して濃尾平野が広大で、拡大が容易であるという背景が影響しているものと思います。

突出して成長した大都市として、福岡と仙台を例示しています。

福岡は、東京からの距離に加え、同様に等距離の盛岡などと比較して温暖な気候であること、東アジアに近い地理的な条件により、103万人から292万人へ3倍近く成長し、平均人口密度・最高人口密度・面積ともに増加しました。
図8を見るとわかるとおり、「国レベルの集中」効果が「都市レベルの分散」効果を上回っている状態で、最大人口密度は19,000人から28,000人となり、現時点で大阪と並んでいます。

仙台も似たような状況で、人口が51万人から131万人へ2倍以上増加し、相対的に成長した都市です。
一方で、面積も3倍に増え、平均人口密度は減少しています。
しかし、程度の違いこそあれ、福岡と仙台の都市内部の人口分布の変化は似ています。

これらの5都市のように、極端な優位性がなければ、新潟のようにはっきりと平坦化が進んでいる場合が多いと述べられています。

大都市に隣接する小都市が、大都市に吸い込まれる形で消滅する例として、岐阜市・大垣市を示しています。
1970年は独立した都市であった大垣市は、岐阜市に吸収される形で縮小が進んでいます。
また、こちらを確認するとわかるとおり、大垣や岐阜は「国レベルの集中」が起こるなかで人口が流出して集積を維持できず、都市としての条件を満たさなくなった地方地域の典型です。

街・都市が生まれる仕組み

まず、同じサービスが一箇所に集積する理由を、「消費者の多様性嗜好しこう」、「輸送費用」、「店舗レベルでの規模の経済」とし、レストランで例を出して説明されています。

  • 消費者の多様性嗜好しこう
    消費者は多様性を好み、同じ飲食店という業種でも、選択肢がたくさんある場所を好む
  • 輸送(交通)費用
    費用を掛けずにアクセスできる立地に集まる。人々も、簡単にサービスにアクセス可能な場所に転居してくる
  • 店舗レベルでの規模の経済
    販売規模が大きいほどコストが低く、人口集積地に出店しようとする
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第三話 図1. 集積形成の仕組み

図1のようなサイクルが起こった結果、レストランと人口が集積していきます。
実際には、レストランだけでなく様々なサービスが集積して街が形成されます。

次に、街が生まれる仕組みを、「需要の価格弾力性」で説明しています。
需要の価格弾力性とは、例えば普段使いの安価な飲食店に行こうとする時、わざわざ1時間かけて電車で都心まで行くには抵抗があると思います。しかし、誕生日などに特別な料理を食べようと、高級レストランに行くために都心に赴くと考えると、前者より抵抗が少ないでしょう。
この価格の変化による需要の変化の比率を「需要の価格弾力性」と呼びます。

ドーム球場、劇場などの商圏が特に大きなサービスから、ブティックなどの中規模商圏、レストランやコンビニエンスストアなどの小規模商圏などの様々なサービスが集合して都市を形成していく過程で、それぞれの需要が集中する中心に大都市が形成されます。
この経済圏の内部で小規模な地域経済圏が生まれる「入れ子構造」になっており、地域経済は、「大都市と周辺小都市群」の「一極構造」が入れ子を成しています。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第三話 図2. 産業立地のコーディネーションと都市形成

図5は、それぞれ、2020年時の人口10万人以上の83都市、人口50万人以上の21都市、人口100万人以上の11都市の位置を黄色の丸印で示し、各都市の後背地を色分けしています。大都市ほど互いに離れて形成され、おおよそ前述の理論に適っていることがわかります。
100万人以上の都市が太平洋ベルト地帯に偏っているのは、寒冷な気候に都市が形成されづらいことが影響していると述べられています。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第三話 図5. 都市の人口規模と地図上の配置

人口10万人以上の都市には、外食では「お好み焼き店」「すし店」「ラーメン店」、小売では「ホームセンター」「めがね店」、医療系では「内科」「外科」「小児科」といった、日常的に消費・利用するモノ・サービスを供給する業種が多く含まれます。
人口50万人以上の都市には、外食では「ふぐ料理」「懐石料理」「韓国料理」、小売では「外車販売」「和楽器」「茶道具」、医療系では「アレルギー科」「呼吸器内科」「心療内科」「脳神経外科」など、より専門的な業種が含まれ、「ライブハウス」などの集客が必要な業種が登場します。
人口100万人を超えると、「自動車製造」のような大型機器の製造業、メディア関係、貿易関係の業種が含まれます。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第三話 図6 産業の立地都市の数と平均人口

図6は、NTTタウンページに掲載されている1,858業種について、それぞれの立地都市数(横軸)と立地都市の平均人口(縦軸)の関係を示しています。青点は各業種に対応しています。
破線は、横軸の各立地都市数に対して、その数の都市の平均人口がとり得る値の上限と下限を示しています。13
例えば、仮に「映画館」という業種が存在する都市数が100で、立地する都市の平均人口が30万人であれば、縦軸が105のメモリから上に3つ、横軸が100の場所に青点がつきます。

図に示している赤い帯は、平均都市人口の下限から上限までの幅の上位5%の領域です。全1,858業種の94%が、この範囲に含まれています。
これは、ほとんどの業種が人口上位の都市から順に立地していることを示しており、前述した産業や都市の集積の理論に整合していることがわかります。

都市人口分布のべき乗則を伴うフラクタル構造

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第三話 図2. 階層的な地域構造

大都市とそれを取り囲む小都市群がひとつの経済圏を作るのは、大都市が「東京」の場合だけでなく、「大阪」をトップとした関西圏や、「福岡」をトップとした九州圏など各地域に切り分けた場合でも起こり得ます。

上記の図のように、上位都市から切り分けを行い、各層毎に地域を切り分けていった時の各地域の人口分布が下の図3です。


引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第三話 図3. 都市人口分布のべき乗則を伴うフラクタル構造

この人口分布図は対数軸が用いられており、各地域に分割すると、完全な相似形ではありませんが、相似的です。
つまり、国内の地域経済は、おおよそ都市人口分布のべき乗則を伴うフラクタル構造で特徴づけられます。
※フラクタル構造とは、全体の形状の一部が、縮小された形で全体と似た構造を持つという性質です。

この結果は、日本だけでなく、アメリカ・フランス・ドイツ・中国・インドでも同様な結果が得られ、ある程度一般的な都市の秩序であると考えられます。

将来の都市人口・都市数を予測するにあたって

将来の都市人口や都市数を予測するにあたって、様々な前提条件を設定しています。
専門性の高い話なので、この論文著者のコラムをご覧ください。

100年後の都市、地域の姿

推測される動き

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話 図1. 全国人口の将来推計

この図は、社会保障・人口問題研究所が出した日本の将来推計人口です。
中位推計が、現状維持の出生率1.36、低位1.13、高位1.64で想定されています。
約100年後、2120年の将来推計人口は、中位で5,100万人ですが、2023年の出生率が1.20と急激に減少しているのを考えると、低位の3,700万人と考えるのが自然でしょう。

森教授のコラムでは、中位推計を総人口のベースラインとしつつ、低位推計の下での結果も紹介されています。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話 図2 予測モデルに求められる動き

記事で前述した通り、この予測で求められる人口の動きは国レベルと都市レベルで異なります。

国レベルでは、都市分布はフラクタル構造であること、少子高齢化と輸送・通品費用の減少により
1) 都市人口のべき乗則の維持
2) 国全体の人口減少
3) 大都市への人口集中

都市レベルでは、都市内部での平坦化が進むため、
1) 都心の人口密度の低下
2) 郊外化

が求められます。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話 図3. 都市化率の推計

また、将来の都市の盛衰は、都市化率の変化にも影響を受けます。
1970年〜2020年までの傾向から、100年後の2120年には都市化率は90%に達すると予測され、将来に亘り予測された都市化率の下で、個々の都市の盛衰を予測しています。

予測モデル

コラム第3節~第6節では、予測の技術的な側面を説明が説明されています。
専門的な内容になるため、興味のある方はコラムを参照してみてください。

大都市への集中

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図1. 都市数の予測

1970年から2020年にかけて、人口は2,000万人以上増加したにもかかわらず、都市数は70以上減少し、大都市への集中が進んできました。
過去50年は、都市内部の平坦化による面積の増加で、周辺都市が大都市に飲み込まれ、取り入れられるように減少しましたが、将来予測では人口が急激に減少し、平坦化しても面積がそれほど増えず、都市の減少は消滅を意味しています。


引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図2. 将来の都市人口分布

都市人口の分布を見ると、どの年代もおおよそべき乗則を保って分布しており、人口減少によりグラフが下に移動しています。
直線の傾きはおおよそ一定ですが、将来に向かうほど上位4都市へ集中し、特に首位都市の東京と、第4位の福岡への集中が明らかです。

個々の都市の盛衰

引用元:引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第4話後編 図4 〜 図8

まず、1970年から2020年までの人口シェアの成長率を見てみましょう。
人口数は中位推計をベースにされています。
暖色が人口シェアの増加で、赤>紫>オレンジで成長率が高いことを示します。
青は人口シェアが減少しています。
地図内の×は、期間内で都市が消滅したことを示します。
記事の最初の方に記載していますが、ここでいう都市の定義は、市区町村ではなく以下の通りです。

・人口密度が1,000人/km2以上かつ
・総人口が1万人以上の地理的に連続した1kmメッシュの集合

首都圏など、都市が連続する場合は「東京」内に「横浜」「さいたま」などの大都市も含みます。

人口シェアの成長率を補足:
例えば1970年に福岡の人口が約100万であったとします。
当時、日本の人口は約1億人なので、福岡の国内に対する人口シェアは約1%です。
2000年に福岡の人口が200万人になったとすると、その時代の日本の人口は約1億2,700万人なので、福岡の人口シェアは約1.57%となり、人口シェアの成長率は約57%となります。
人口シェアの成長率は、国全体の人口が減少しても影響を受けず、国内の総人口に対するその都市の人口シェアの増減で決まります。

1970年から2000年にかけて、都市外の地域から都市への流入により都市の拡大が進み、脱工業化に適応しなかった「北九州」や「静岡」などは衰退していますが、都市の人口シェア成長率は概ね増加しています。

2000年から2020年にかけては、衰退する都市と成長する都市の二極化が顕著になっています。
東京より東では、先行する高齢化の影響で、東北新幹線沿線を除く多くの都市が衰退傾向に転じています。
西日本では、大阪が衰退傾向に転じており、東海道新幹線のぞみ号の運行開始により商圏が広がり、かつて競争相手になかった東京企業との競争によって、大阪の企業の移転・退出を余儀なくされた、いわゆる「ストロー効果」が原因であると述べられています。

東京・名古屋間も、浜松を除く多くの都市で衰退に転じており、名古屋は歴史的に製造業が強いことが、人口維持の要因とされています。

ここからが未来の予測です。
2070年までの50年間で、東名間は完全に東京の影に隠れて人口シェアの減少が進み、東北地方も新幹線沿線でもシェアの減少が目立つようになります。

2070年〜2120年の50年で、東海道・山陽道を外れた多くの地域では、10万規模の都市が消滅します。東京から東で相対的に成長するのは仙台のみとなり、名古屋が減少に転じることで、東阪間は東京の陰に隠れています。
引き続き福岡は人口シェアを伸ばしています。
福岡は、東京から十分な距離があり、温暖かつ東アジアに近いという地理的利点が多く重なる都市であることが成長要因と述べられています。

2120年から2170年までの予測では、仙台が減少傾向に転じ、おおよそ東京・福岡間全体が衰退に転じます。これは東京の陰だけでなく、「東京と福岡の陰」と呼ぶべき状況だと論じられています。

ここまでの都市の盛衰を見ると、おおよそ理論通りに大都市に向けての極化が進み、東京の影響の拡大による東京-福岡間の衰退と、2都市の人口集中が進む傾向が示されました。

図5〜8が示す通り、小規模都市から消滅するのではなく、すでに高齢化が進み、低出生傾向にある東京の東側の都市が明らかに衰退が速いと予測されています。

都市内の人口分布の平坦化

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図10. 都市内の人口分布の平坦化 (中位推計)

先に記載したものと同じ都市内の人口分布の平坦化を表す図です。
2020年から100年間で、都市の面積は平均5%増加するにもかかわらず、最高人口密度と都市の平均人口密度はいずれも減少し、都市の内部で人口分布が平坦化する傾向が今後も継続する見込みです。

大都市の人口分布

東京の場合
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図12. 都市内の人口分布の平坦化(東京の場合)

東京は、2020年までの過去50年で1,400万人の人口増があったにもかかわらず、最高人口密度は8000人/㎢も減少し、都市の平坦化が進行してきました。
その傾向は予測でも見られ、森教授らの予測では、2120年には、中位推計では、東京の人口および都心の人口密度が現在の約半分に、低位推計では約1/3にまで減少すると見られています。

大阪の場合
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図13. 都市内の人口分布の平坦化(大阪の場合)

大阪の場合も同様です。
首都圏と比較して、過去50年の人口増加割合は低く、1970年時点で最高人口密度は東京と同等でしたが、減少幅は大きく、若干の差が開いています。
将来予測も同様で、中位推計での人口減少率は東京の約半分と比較しても約6割と多く、東京よりも大幅な人口減少が予測されています。

名古屋の場合
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図14. 都市内の人口分布の平坦化(名古屋の場合)
※元記事に記載ミスがあったので一部修正しています。

名古屋の場合は、1970年〜2020年では東京並みの人口増加率を示していますが、それ以降は大阪と似た人口減少の動きを見せています。
元々人口規模と比較して広大な平野を持つ名古屋は、人口の多い東京・大阪や、平地が少ない福岡と比較して平均人口密度・最高人口密度は低くなっています。
中位推計の下では、人口・都心の人口密度ともに現在の66%まで減少、低位推計の下では、人口は46%まで、都心の人口密度は55%まで減少する見込みです。

福岡の場合
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図15. 都市内の人口分布の平坦化(福岡の場合)

福岡は、過去50年で「都市内の平坦化」以上に「国家レベルの人口集積」が発生した特殊な地域で、3大都市と違い、人口増加と最大人口密度の増加が同時に発生しています。中位推計の下では、人口・都心の人口密度ともに現在の66%まで減少、低位推計の下では、人口は46%まで、都心の人口密度は55%まで減少する見込みです。2120年の推計では、福岡の都心部は全国で最も高密度な地区となっており、大都市の中でも比較的都心地域が維持される例外的な都市です。

札幌の場合
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図16. 都市内の人口分布の平坦化(札幌の場合)

札幌の場合です。2120年の中位推計の下では、人口は現在の41%まで、都心の人口密度は44%まで減少、低位推計の下では、人口は29%まで、都心の人口密度は33%まで減少する見込みです。
高齢化などで大幅に人口が減少する地域ですが、低位推計でも東京以東で唯一の50万都市として、北海道の拠点であり続けるでしょう。

仙台の場合
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図17. 都市内の人口分布の平坦化(仙台の場合)

仙台の場合です。2120年の中位推計の下では、人口は現在の42%まで、都心の人口密度は41%まで減少、低位推計の下では、人口は29%まで、都心の人口密度は31%まで減少する見込みです。
減少率では札幌と同等で、今日の東北新幹線の利便性が維持されない場合はさらに減少が加速する可能性を示唆しています。

地価の変化

上述の通り、大都市では特に都市内部での平坦化が進み、それに伴い地価も低下していくことが予測されます。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図18. 地価の変化(中位推計)
引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図19. 地価の変化(低位推計)

図18, 図19は2020年の地価を1とするグラフですが、全国の地価下落と比較し、都市ではさらに地価下落が進むことがわかります。特に平坦化傾向が強い3大都市では、全都市平均と比較しても低下幅が大きくなっています。

地方都市の衰退

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図20. 地方都市の消滅(秋田県)
※1970年の地図で、総務省データに秋田のデータの欠損あり

太平洋ベルトから外れる自治体は、顕著に都市が消滅する傾向が予測されています。
秋田の場合は、過去50年で秋田新幹線の開業によって、ターミナル効果(新幹線の終着駅)が働いたと解釈することができますが、高齢化などにより最近は衰退傾向にあり、2120年には10万人を下回ると予測されています。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図21. 地方都市の消滅(岩手県)
※上二つは年の記載がありませんが、1970, 2020の実績値と思われます。

岩手県は、2020年時点で、旧奥州街道沿いの地域と、海岸線の地域に都市が集中していました。
予測では、まず海岸線の都市が消滅し、次に街道沿い(東北新幹線沿線)の都市が消滅していきます。
盛岡は2120年時点で人口10万を維持していますが、東北新幹線の利便性を保つのは難しいと考えられ、これらの予測は岩手県の人口減少を過小評価している可能性があると述べられています。秋田県も同様です。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図22. 地方都市の消滅(島根県) 図23. 地方都市の消滅(高知県)

主要交通網から離れた地域で、100年後に都市を維持する例として高知と島根が代表例として挙げられています。
このような都市は、県庁所在地や歴史的な遺産を持つ特殊な地域の場合が多く、前者は「松江」「高知」、後者は「出雲」がその例です。
しかし、県庁所在地の人口は「公務関係者」が多く、人口減少を過小評価している可能性があることが指摘されています。

これからの都市や地域で起こりうること、その対策

コラム中に、100年後に都市や地域に起こりうることとして以下3点が挙げられています。

  • 太平洋ベルトに外れた地域の都市消滅
  • 大都市で、都心の人口密度が半減する大規模な都市の平坦化
  • 人口分布が西日本に傾倒し、東京・福岡以外の大都市でも人口シェアが急激に縮小する

これらの問題に対して、コラムに挙げられている対策と、本記事筆者の意見を交えて紹介します。
純然なコラムの意見はこちらを参考にしてください。

コンパクトシティ政策

上記の問題に対する対策として、まず「コンパクトシティ政策」が挙げられています。
富山市の事例が有名ですが、コンパクトシティ政策は現在も多くの都市が積極的に進めています。

しかし、予測の通り、多くの都市が消滅する中で、都市単位でのコンパクトシティ化を進めても、すべての都市で都市機能が維持するのは難しく、国レベルで集積させる都市と、縮小を支援する都市を明確に分ける必要があるとコラム内で指摘されています。

マクロ経済的な視点の話なので、実際に多くの日本人が故郷の消滅を容認し、それらの政策を受け入れるかは難しい問題ですが、現実的に数千に分散する自治体の都市機能を集約していかなければ、縮小する財政的に、立ち行かなくなることは明白です。

コンパクトシティ政策は、世帯や企業の動機と逆行することも指摘されており、輸送・通信費用が減少することで、都市にサービスを集積するメリットも少なくなり、都市の平坦化傾向でもわかるように、より居住コストの低い郊外に向かって分散することが示唆されています。

これらの諸問題により強い意志を持った政策で、持続可能性が期待できる都市を選択し、集中・集約させることが必要です。しかし多くの反感を買う政策であり、現在の日和見政治の横行する日本で、そのような意志の強い政策を打ち出すことはとても難しいものだと考えます。
また、高齢化が進むにあたって、傾向的に高齢者が多く住む地方都市で、都市を集約する政策を打ち出す政治家が選ばれるというハードルもあります。

地方創生政策

都市部に人口が集中して衰退していく地方には、広大で安価な土地が残されます。
コラムでは、第一次産業の人手不足は、十分に利潤が得られれば解消すると示されていますが、私も個人的にそのように考えています。
日本では戦後のGHQの農地改革によって、地主の持つ土地が小作農に与えられ、小規模農家が多く乱立しています。
近年、農業への投資や人材の流入を目的とした国家戦略特区に兵庫県・養父市や新潟市が指定され、企業参入の緩和などが試験的に行われていました。
企業が参入すれば黒字化するというものではなく、企業による農地運営は難しいとされていますが、安い土地の有効活用という面で、農業の大規模化やスマート化を行い、利潤を上げられる第一次産業を志向することは、地方創生を考える上で大きなテーマだと考えています。

また、交通インフラが整った国土は第二次産業の立地拠点としても魅力的なはずで、TSMCのような海外資本の受け入れも重要なテーマの一つです。

都市の低密度化

現在進行形で、大都市でも都市の平坦化が進み、人口密度が極端に高い地域が減っていく中で、東京や大阪をはじめ、地方都市でもタワーマンションの建設が進行しています。
これからの急激な人口減を前に、急速に建設が進む大規模ビルはこれからも残り続け、それらの需要がなくなったときに負の遺産になることは間違いありません。
マンションやビルの建て替えで、さらに利益をうむために建物の容積をさらに拡大させるというのは、現在需要のある都心部ではミクロな視点では合理的です。
しかし、急激に減少する人口を見据え、建築物の低層化・低密度化は必須で、これらは国が政策でコントロールしていく必要があると考えます。

大都市の衰退とその対策

都市から人々が減っていく際に残り続ける住宅やインフラの耐久性がもたらす効果は、今回の予測で考慮に入れられていません。

引用:都市を通して考える日本経済 / 森知也 第四話後編 図27 衰退する大都市で生じる悪循環

上図では、かつて重工業で栄えたデトロイトの衰退で発生した悪循環が示されています。
人口が減少しても住宅などのインフラが残り、価値が下がった住宅に低所得層が流入し、治安が悪化して高所得層が転出することでさらに地価が減少するという悪循環が発生する可能性が、東京や大阪など日本の大都市でも起こり得ます。

大都市では盛んに再開発が行われていますが、今後の大都市で必要なのは「スムーズな縮小」であると述べられています。人口減少を見据えて、身の丈にあったオフィスや住宅、輸送インフラなどの供給の制御が都市の持続可能性で重要です。

予測が外れる可能性と理由

予測が外れる可能性として、以下が挙げられています。

  • 都市間の人口分布の変化
    大都市の人口が減少し、地価が下がることで大都市には広大なスペースができます。特に東京に安価に進出できるとなれば、他の大阪や名古屋などの大都市から企業や住居の移転が大量に行われる可能性があり、大都市への極化がさらに進みます。
    ミクロな経済主体の意思決定を含まないこのようなモデルでは、学習データにはない大きな変化が起こった場合の変化を正確に予測できない可能性があります。
  • 都市内の人口分布の変化
    都市の人口分布は、国レベルのべき乗則で成り立つ秩序がありますが、都市内部の人口分布はそのような秩序が働かず、1kmメッシュの人口の変化は、過去50年のデータが予測の頼りとなります。この場合、採用するモデルや手続き上の仮定によって強く影響するため、予測モデルや仮定を変更した際の影響を検証する必要があるとしています。
  • 大規模災害の発生
    南海トラフなど、大規模な災害は高確率で発生が予想されていますが、大規模災害は地域の、特に地方の人口動態に大きく影響する可能性があります。
    東京大震災は復興に10年を要しましたが、巨大なインフラが完全に失われるわけではなく、10年で復興が完了しています。しかし、地方ではそうはいかないでしょう。
    しかし、そのような場合でも、都市間の人口分布や、大小都市の地理的な分布の変化の傾向は大きくは変わらず、一度形成された大都市は簡単にはその位置を変えず、国レベルでの都市への集積の傾向は無くならないことを示唆しています。

内容を踏まえて

今回紹介したコラムでは、都市の成熟の過程が都市の立地に大きく影響されることが示されました。
実距離ではなく、国内を移動するコストである「費用距離」「時間距離」や、場所にとらわれずに情報を得ることができるインターネット化によって商圏や人々の行動可能範囲の拡大によって、より大きな大都市が他の都市を飲み込んでいき、都市内部では都心から郊外に人々が移る「平坦化」の傾向が分析・予測されています。

少子高齢化が問題視され始めて、多くの少子高齢化に関する政策が政治家から発案されていますが、(もちろん根本の解決としてそれら政策は重要という上で)実際に近い将来訪れることが確定している、地方の消滅と、大都市自体の衰退に対する対策が重視されているかといえば、その意識はまだ希薄だと言えると思います。
特に、人口上位の政令市やその衛星都市に住んでいると、まだ他人事のように感じる方も多いかもしれませんが、近い将来確実に新たな都市問題が顕在化することを理解し、行動選択する必要があります。

太平洋ベルト地域が「東京・福岡」の陰に隠れるという言葉がありましたが、国内における「人口シェア」の話であって、人口の絶対数は東京・福岡であってもすぐ近い将来に都市の縮小が始まります。都市の衰退を前提とした政策を大都市の首長や議員が声高に唱えると、有権者に悪い影響を持たれかねず、なかなかそのような声は中心的な議題にあがらないことが多いですが、我々一市民もこのような現実から目を背けず、現実的な政策を実行できる政治を求めることが重要になってくるのではないでしょうか。失われた20年が、失われた200年にならないことを祈るばかりです。

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